影侍シリーズ  祥伝社/祥伝社文庫

影を背負って生きる剣客一人。放っておけない男が二人。

光文社文庫の第1作『辻風の剣』刊行直後にお声がけいただいた祥伝社文庫で執筆した、唯一のシリーズ作品です。オランダ人の血を引く主人公の鏡十三郎(かがみじゅうざぶろう)は眠狂四郎を意識して造形したキャラクターでしたが、デビュー間もない当時の私には上手く描写しきれず、狂四郎のようにクールな態度の中に熱さを秘めた人物とはならずにただただ暗いばかりという、残念ながら類型的な人物像のまま2巻で終ってしまいました。読み返すと内容は反省点だらけですが、主人公に陽気な脇役たちがちょっかいを出すという私の作品によくある図式は、この作品辺りから試み始めたものです。もしも今の私が同じ設定で話を書くとしたら、十三郎よりも相棒の田野辺聞多(たのべもんた)をメインにするでしょうね……そうするとタイトルが『ご陽気侍』で『上様出陣!』さながらのコメディになってしまいそうですが(笑)。

【表紙(装画 村上豊)】
左から順に第1巻『影侍』2006年12月刊、第2巻『落花流水の剣』(2007年12月刊)です。全2巻完結。

影侍シリーズ 第1巻 影侍影侍シリーズ 第2巻 落花流水の剣

新刊だけでは飽き足らず、古本屋でも時代小説を買い漁っていた大学生の頃、いつか作家デビューできたら作品の表紙をお願いしたいと切望していた、大ベテランの村上豊先生にご登板いただけたのがこのシリーズを手がけた一番の思い出です。何とも言えない味のある、大胆にして緻密なタッチで描き分けられた老若男女の表情が、またいいんですよ。顔だけではなく、手や足の所作からも感情が溢れ出ている感じが大好きなのです。本作品の主人公の十三郎は喜怒哀楽の表現に乏しい設定なのですが、1巻の表紙からは生来の孤独さと無骨な感じ、2巻は紙一重の見切りで勝負を決める剣客の凄みが伝わってきます。村上先生、その節は誠にありがとうございました。